えんちゃん池袋ふくろう物語 第7話
2011.03.26
その他
池袋ふくろう物語 #7
ある日のこと、えんちゃんは朝ごはんを食べるといつものように外に出かけました。
今日はとてもいいお天気で、風もふんわりと温かいような気がします。
いい気持ちで太陽の近くや木のてっぺんを飛んでいると、一番高い木のてっぺんにふくちゃんがいました。
ふくちゃんは近くに住む仲良しのお友達です。
ふくちゃんはまるで何かを待っているように右を向いたり左を向いたりしていて、とてもいそがしそうです。
「ふくちゃんおはよう、何しているの?」
「おはようえんちゃん。今はね、はるいちばんを待っているの。」
ふくちゃんは嬉しそうに答えます。でも、えんちゃんには「はるいちばん」が何のことだかさっぱりわかりません。
「はるいちばん、ってなぁに?」
「よくわからないんだけど、大切なお客さんなんだってパパとママが言ってたの。だからこうして待っているの」
そんなに大切なお客さんがくるなら
「でも、大切なお客さんなのに間違えちゃったらどうしよう。どのくらい来るか分からないし・・・」
ふくちゃんは
えんちゃんとふくちゃんが悩んでいるところに、ホー先生が通りかかりました。
ホー先生はえんちゃんたちが住むところでは一番長生きのおじいちゃんで、とてもものしりな学者さんです。
「どうしたんだい?」ホー先生は言いました。
「先生、はるいちばんさんってどんな動物さんなの?」
「大事なお客さんだってパパとママが言うからえんちゃんといっしょに待ってるんだけど、どういう動物さんなのか分からなくて困っているの。」
えんちゃんとふくちゃんは次々にホー先生に向かって言いました。
「君たちが待っている春一番というお客だが、姿は見えないんじゃよ」
ホー先生は笑ってこう答えました。
「え!じゃあ僕たちは会えないの?」
「そうではない。君たちはちゃんと春一番がわかるよ」
ホー先生は「はるいちばん」は外に出ていればすぐにわかると言いました。
見えないのに分かるなんてよくわからないなぁと思っていると、
ホー先生が「はるいちばん」について教えてくれることになりました。
「はるいちばん」は春になってから一番最初に吹く強く暖かい南風のことで、春がきますよというお知らせ役の風さんのことでした。あたたかい日に吹く時が多いそうです。
「じゃあ今日はあったかいから春一番がくるってこと?」ふくちゃんが聞きます
「そうじゃ。外に出てまっていればもうすぐ来るよ」
「ねぇホー先生、他の動物さん達は春一番さんのこと知っているかな?」こんどはえんちゃんが聞きます。
「知らないものもいるし、知っているものもいるだろう。教えてあげると喜ばれるかもしれないな。」
それから、えんちゃんとふくちゃんはいろんな動物さん達に春一番を教えてあげようと思い、まちの中を飛び回ることにしました。
おとなはみんな教えてくれてありがとうと言ってくれました。
えんちゃんたちよりも小さい子は春一番のことを知らなかったので、分かりやすく教えてあげました。
街のみんなに教え終わると、さっきまでいた一番高い木のてっぺんに戻ってきました。
えんちゃんもふくちゃんも、春一番が来るのを静かに待っています。
しばらくすると、かすかにふいていた風がピタッと止まりました。
どうしたんだろうね?とえんちゃんがふくちゃんに言おうとした時、暖かくて大きな風がぶわっと吹いてきました。
「わぁ!大きくてあったかい風だね」
「きっとこれが春一番さんなんだよね!」
えんちゃんとふくちゃんが喜んでいると、もう一回暖かい風が吹きました。
風を受けた木は、ゆさゆさと揺れています。
きっとようこそって言ってるんだね
ふくちゃんがそう言うと、えんちゃんはなるほどと思いました。たしかに木は嬉しそうにゆさゆさ揺れています。遠くから鳥さんが「春一番だぞー!」と言っている鳴き声も聞こえます。
「まちにいるみんなが喜んでいるね。」
「土の中で冬眠している動物さん達には伝わったかな?もう少ししたらみんな外に出てきて賑やかになるね!早く春にならないかな!」
その日、えんちゃんとふくちゃんは暖かい風に乗って、暗くなるまで楽しく遊んだのでした。