池袋フクロウ物語 第4話
2010.12.17
その他
(モザイカルチャーフクロウ製作募集時のイメージイラストの一枚↑)
池袋フクロウ物語#4
次の日の朝、えんちゃんはコノハズクお兄さんに起こされました。
「えんちゃん、起きて、ちょっと出かけよう。」
お兄さんが布団をゆさゆさと揺らして起こそうとしますが、えんちゃんはまだ眠いらしく、布団をかぶってしまいます。
お兄さんが布団を引き離してカーテンを開けるとやっとえんちゃんが目を覚ましました。
えんちゃんは目をこすりながらそれだけ言うと、また横になろうとします
「眠いって言ってももう8時だよ。ちゃんと8時には起きるってパパとママと約束したんだろう?」
横になろうとするえんちゃんを止めてお兄さんが言います。
「今日は朝のお散歩に行ってみないかい?いつもの場所とは違って楽しいと思うよ」
えんちゃんはお兄さんに手をひかれて外に出ました。
飛び始めたときに冬の朝の風が体に当たって、えんちゃんははっきりと目を覚ましました。
「寒い!ここの朝はこんなに寒いの?」
「えんちゃんが住んでいるところがあったかいからそう思うんだよ。」
お兄さんは笑いながら答えます。二人は川の水を飲みながら山をぐるっとまわっていきました。
朝も車が通っています。昨日のお兄さんの話を思い出したえんちゃんは、 お兄さんに自分の考えを相談することにしました。
「お兄ちゃん、ここを通る車を僕たちでやっつけて元の森に戻させようよ!」
えんちゃんは目を輝かせえ答えますが、お兄さんは首を横に振りました。
「だめだよ、あの車はね、病気の人間を病院まで連れていく車なんだ。ここに道路が作られる前は、この先にある村の人間が病院に行くにはとても長い距離を歩いて隣の村のバス停まで行ったんだよ。」
お兄さんがえんちゃんに、村の人間はお兄さんたちが食べ物に困っているとごはんをそっと置いておいてくれる優しい人ばかりだと教えてくれました。
「その人たちに病院が必要だって僕たちは知っていたから、怒ったりできないんだ」
えんちゃんとお兄さんは道路が見える木に止まりました。
お兄さんはいつもよりも大事なことを 話すようです。
「人間が何をしゃべっているのか僕たちに分からないように、僕たちの言葉も人間には分からないんだ。」
えんちゃんはこくんとうなずきました。
えんちゃんたちは人間の動きで何をしているのか、何を言っているのか考えているのです。
「もしかしたら木を切るときにごめんなさいと謝ってくれたかもしれないし、今のバスのために本当に必要だったから作るしかなかったのかもしれない。」
お兄さんの話はまだまだ続きます。
「変えられてしまったものは元に戻れない。僕たちは新しい場所でも生きていけるように頑張らないといけないし、人間には僕たちが生きられるように頑張ってもらわないといけない。」
お兄さんの話はえんちゃんには難しいものでしたが、えんちゃんの心の中にどんどんと響いてきました。
「僕たち動物のことや木のことを心配して、もう木を切ったりしないように頑張っている人間だってたくさんいるんだ。」
「ほんとう?」
えんちゃんは首をかしげました。そんな人間がいるなんて初耳です。
「そうだよ、えんちゃんの住む池袋にもいるし、世界中にいるよ。今度パパやママに聞いてごらん。」
えんちゃんは、人間は不思議だなぁと思いました。えんちゃんたちには木を切って道を作るなんて考えもつかないからです。でも木を切らないように頑張っている人間もいるとわかると、同じ人間なのにどうして考えが違うのかとても不思議になりました。
ちょうどそのとき、どこからか声がしました。人間の子供の声です。
「木の下だよ。僕らに向かって手を振っている。あのおばあさんは僕たちに食べるものをくれる、いい人間なんだよ」
お兄さんに言われて木の下を見ると、人間のおばあさんとえんちゃんと同じくらいの歳の男の子がいました。
「なんて言ってるんだろう?」
「わからない、でもおばあさんも男の子もうれしそうな顔をしているから、僕たちにおはようと言っているのかもね。」
えんちゃんとお兄さんはホーと鳴きました。
フクロウの言葉で「おはよう」という意味です。
えんちゃんたちがホーと鳴く少し前、木の下では人間のおばあちゃんと男の子がこんなおしゃべりをしていました。
「おばあちゃん、あんなところにフクロウがいるよ!」
男の子が木の上を指さしました。
「ほんとうだ。この道路ができてから姿が見えなくなったから怒ってどこかに行ってしまったんだと思っていたけど、まだ近くにいたんだね。よかった。」
おばあさんが安心したように木を見上げます。
「おーい!フクロウさん!おはよう!」
男の子が手を振りながらこう言ったとき、えんちゃんとお兄さんはホーと鳴きました。
#4おしまい