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池袋フクロウ物語 ♯1

2010.10.07

その他

池袋フクロウ物語 #1


    えんちゃんの家族(かぞく)は、いつものように北の国にいるおじいちゃんのお家(うち)で夏(なつ)を過()ごしました。

フクロウは暑(あつ)いところが苦手なので涼(すず)しい場所(ばしょ)に移動(いどう)して夏を過ごすのです。

9月になって涼しくなり、パパのお仕事(しごと)が始(はじ)まるので池(いけ)袋(ぶくろ)に帰(かえ)ってきました。去年(きょねん)まではママの背中(せなか)に乗()っておじいちゃんのお家から帰っていたえんちゃんですが、今年(ことし)はパパとママの間(あいだ)に入って自分(じぶん)の力(ちから)で飛()んで帰ってくることができました。今日(きょう)は久しぶりに池袋の空(そら)を飛ぶ日です。朝(あさ)ご飯(はん)と身()じたくをすませたらママにいってきますのあいさつをして勢(いきお)いよくお家から飛び立()ちました。


 お家から飛び立ってしばらくすると池(いけ)袋駅(ぶくろえき)が見えてきました。えんちゃんは電車(でんしゃ)が大好きなので駅の上を飛びます。前を向くとサンシャインのビルが見え、池袋に帰ってきたぞという気持(きも)ちになったのですが何かがおかしい感(かん)じがします。

『なんだか前がよく見えない気がする…。なんだか息も苦しいなぁ。それに風(かぜ)が強(つよ)すぎる気()がする…なんでだろう?』

えんちゃんはひと夏ぶりの池袋がなんだかちがうまちのように思えてこわくなったのでお家に帰ることにしました。

その夜、パパとママとご飯を食()べている時(とき)に今日あった事(こと)を話(はな)しました。

二人は顔(かお)を見合(みあ)わせています。パパとママにはえんちゃんがなんでそう感じたのか原因(げんいん)が分()かっているようでした。

「えんちゃん、今のお家の周(まわ)りにはおじいちゃんのお家の周りにはないものがあるのよ。それが何(なに)かわかるかしら?」

ママが聞きます。

「たくさんの木があったよ。」  

えんちゃんが答(こた)えます。木や葉()っぱのみどり色(いろ)がおじいちゃんのお家にくらべて少(すく)ないなぁと朝から思っていたのです。

大正解(だいせいかい)だよ、えんちゃん。木はね、とってもえらいんだ。汚(きたな)い空気(くうき)をきれいな空気に変()えたり、お水をきれいにしてくれたり、強(つよ)い風(かぜ)をちょうどいいものにしてくれたり、わたしたちの家にもなるんだ。」

ものしりなパパが答えます。

「きっとえんちゃんは夏の間をおじいちゃんの家で過ごしたし、一人で飛べるようになって池袋を探検(たんけん)しに行くようになったから違いに気づくようになったのね。」

にっこりとママが笑(わら)いました。えんちゃんはなるほどと思いましたが、また次の分からないことが出てきました。

変(へん)な感(かん)じって思うのはぼくたちだけなのかな?」

「そんなことはないぞ、他の鳥(とり)さんたちもみんな思ってるぞ。」

「鳥さんだけじゃないわ、人間(にんげん)も思っているのよ。」

ママが付()け加えます。えんちゃんはびっくりしました。この前パパとお散歩(さんぽ)に出()たときに周りにある自然(しぜん)のもの以外(いがい)ぜんぶ人間が作(つく)ったのだと教(おし)えてもらったばかりだったからです。そんなにすごい人(ひと)たちがなんでこの変な感じを直(なお)せていないのかパパに聞きました。

「それはむずかしい質問(しつもん)だな。でもそれはとても大切(たいせつ)な質問だから自分で答えを出さないといけないんだよ。えんちゃんはひとりで飛べるようになって、いろんなところに飛んで行って、いろんなものを見たり聞いたりするようになるから自分で分かるようになる日が来るさ。」

 そう言ってパパは笑いました。ママのほうを見ると、ママも笑っています。えんちゃんは答えを見つけてやるぞと思いながら晩(ばん)ご飯を食べるのでした。

 

その日の夜中、えんちゃんは目をさましました。トイレに行きたいのかなと思ったのですがそうではないようです。いつもならとなりでねているパパとママがいないので部屋(へや)を見回(みまわ)すと、ドアの向()こうにはあかりが見えます。きっとパパは明日のお仕事の用意(ようい)が、ママは朝ごはんの準備(じゅんび)があるのでまだ起きているのでしょう。閉()めたカーテンの下からもあかりがさしているようなので何だろうと思ってカーテンを開()けてみると、人間の住()んでいる家の一(ひと)つひとつにあかりがついているのが見えました。この明かりの下には人間がいて、自分たちと同じように暮()らしているのだとパパに教(おそ)わったのを思い出しました。えんちゃんはこの明かりの数だけ人間が木を植()えたらどんなに素敵(すてき)なことだろう、ビルや電車を作(つく)れちゃう人間には木を植えることはとっても簡単(かんたん)だと思うのになぁと思うと、カーテンを閉めお布団(ふとん)に入って目を閉()じたのでした。

#1おしまい

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